目次 | 第3部 応用編 | 超伝導重力計
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1.超伝導重力計とは 2.感度 3.原理 4.感度検定 5.応用(I) 6.応用(II)

超伝導重力計 − 超伝導重力計の原理

 重力加速度の変化を測定するためのもっとも簡単な機構は,支点にばねの一端を固定して他方におもりを吊るし,ばねの伸びの量の時間変化を測定することであろう.おもりの質量とばねの定数がわかっていれば,フックの法則により,おもりにかかる加速度の変化が測定できるというわけである.ところが,機械的なばねには経年変化・温度依存性・ヒステリシスといった問題があるため,このような単純な機構によって長期的に安定で高精度な測定を行うことは実際には難しい.機械式の重力計の一種であるラコスト重力計では,芸術的とも言えるようなおもりの吊り方を採用することで高い性能を実現しているが,それでもやはりドリフト(装置に起因する不規則な変動)やテア(急激なとび)の問題から逃れられていない.

 超伝導重力計においては,機械式の重力計における「ばね」に相当するものが,水平面内に置かれた超伝導コイルを流れる超伝導電流がつくる磁場によって置き換えられている.「おもり」はやはり超伝導物質でできた中空の球で,コイルの面より少し上方に位置している.超伝導状態では,磁場は超伝導物質の内部に侵入することができず,球を浮かせようとする力が発生する(マイスナー効果と呼ばれる).この磁気浮上力と重力加速度とがちょうどつりあう位置で球は静止する.この状態は,おもりが機械的なばねによって吊るされているのと,力学的に同等である.機械的なばねによる弾性復元力が,超伝導磁場による磁気浮上力で置き換えられているということができる.これが前述の機械的な機構と異なるのは,以下の理由により,この状態によって長期的にきわめて安定した機構を実現できるという点である.第一に,超伝導電流はけっして減衰しないので,ばね定数に相当する磁場の強さは未来永劫変わることがない.第二に,重力センサーは液体ヘリウムの沸点に近い極低温(絶対温度約4度)におかれているので,ブラウン運動による熱雑音や,材質の熱ひずみ・クリープによる経年劣化といった問題がほとんど存在しない.第三に,極低温下に置かれたセンサーは1マイクロ度の精度で温度制御されており,外部の温度変化の影響を原理的に受けることがない.

 このようにして浮上させられた超伝導球の位置は,上下に置かれた電極板との間の静電容量を測定することで検出される.信号は電気信号のかたちで取り出され,それに適切な係数をかけることによって重力加速度の相対変化に読みかえることができる.装置の自己ノイズのレベルが低いため,地動ノイズが低く環境が安定した場所では,高分解能の電圧計を使用することで,きわめて高い測定分解能を達成することができる.感度については,どう定義するかにもよるが,ステップ状の変化であれば1×10-9ms-2程度,周期的な信号であれば1×10-10ms-2以下のごくわずかな重力変化をも検出する能力を有することが示されている.また装置の長期的な安定性を示すドリフトは,最新の世代のもので年間1×10-8ms-2以下という驚異的な値を示している.


図3. 超伝導重力計の重力センサーの模式図(GWR社のWebページより).


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