目次 | 第3部 応用編 | 超伝導重力計
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1.超伝導重力計とは 2.感度 3.原理 4.感度検定 5.応用(I) 6.応用(II)

超伝導重力計 − 超伝導重力計の応用(II)

 地球はほとんど一定の速さで自転しているが,詳しくみると回転軸・角速度ともにわずかに時間変化している.回転軸の変化(極運動)はある場所で感じる遠心力の変化を生み,それは重力計の記録に長周期の変化として現れる.この効果は日本のような中緯度地域では意外に大きく,最大で10μGal程度にもなる.

 近年,CHAMPGRACEといった衛星による地球の重力場の測定の精度が飛躍的に向上し,静的な重力場だけでなくその時間変化までとらえられるようになってきた.このことに関係して,地上観測としての超伝導重力計観測に,衛星重力測定の結果を検定するためのground truthとしての重要な役割がうまれてきた.衛星で測られる重力変化と地上で測られる重力変化とは,共通な部分もあるが異なる部分もあり,必ずしも一対一に対応するものではない.例えば,どのくらいの範囲を平均するかという空間代表性の問題や,地球の変形による寄与の効き方の違いなどの問題がある.しかし,これらは適切な処理によってある程度対応関係をつけられるし,むしろそうした違いの中にこそ新たな情報が含まれていると言うこともできる.衛星重力測定と,超伝導重力計観測をはじめとする地上観測との連携は,今後非常に重要な課題となっていくだろう.

 以上述べたきたような事柄に加えて,超伝導重力計観測には,究極のターゲットとも言える研究対象が存在する.超伝導重力計のきわめて高い感度と,重力という観測手段そのものの特性とを考え合わせると,遠方から伝わってくるごく微小な重力変化をとらえることこそが,この装置の特性を最大限に活用することになるであろう.観測がもっぱら地表面で行われることを考えると,地上の誰から見てもある意味でもっとも遠い所にあるのは,ほかならぬ地球の「中心」である.人類は月へ行くことができ,火星に探査機を送ることもできたが,そのような意味では自分たちの足下の惑星の中心はいまだにはるか遠いかなたにある.さまざまな証拠から,地球の中心部には主に鉄からなる核があり,流体の外核と固体の内核からなることがわかっている.この部分においては,弾性力を復元力とする地震波とは異なり,浮力を復元力とする振動(重力波)が存在すると考えられている(コア・モードとかコア・アンダートーンなどと呼ばれている).これらの振動を観測することは,原理的に,超伝導重力計によってのみ可能であり,世界の超伝導重力計を結んだネットワーク(Global Geodynamics Project:GGP)の主要な目的の1つとなっている.これは,掘ってみることのできない地球深部の密度構造を,地上観測によって直接得ようとするチャレンジなのである.


図6. 世界のGGP観測点の分布.赤は日本の研究機関が維持している観測点.


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