目次 | 第3部 応用編 | 絶対重力測定
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1. at 富士山頂 2. at 三宅島 3. with 地震

絶対重力測定 − 火山活動を見る(その1) 絶対重力計と相対重力計の連係プレー

 2000年に伊豆諸島の三宅島で極めて特異な火山活動が起きた.もし,島内に重力の変わらない不動点を見出せれば,そこを基準にして機動性に優れた相対重力計だけで質量の移動量を見積もることができる.しかし,実際には狭い島内では全島が大規模な地殻変動をこうむっているから,それは無理な要請である.相対測定の基準とする点での重力変化は,絶対重力計できちんと定める必要がある.このように絶対重力計と相対重力計の互いの長所を生かして,連係プレーで重力変化を決める方法をハイブリッド重力測定という.

 では,三宅島の噴火活動前の平穏だった時期と活動開始直後の2000年7月とで,どのように重力が変化したのだろうか? 図2をみると島の中央(=山頂部)を中心とした,約150μGalの重力減少がすぐに目に付く(図2).山頂部での隆起・沈降はたかだか5cm程度だったので,この重力の減少から山頂直下に空洞が形成されていることが推定される.2000年6月末に西海岸で海底噴火(=マグマ圧力の暴発)がいったん終了すると,マグマだまりは空気の抜けた風船のように圧力を失ってしぼんでいく.すると,マグマだまり上方の岩盤を支える力が失われて,上方の岩石はちょうどダルマ落しのように,順繰りにマグマたまりの方に落ち込んでしまう.そして,地表付近に空洞をつくるのだ.詳しい計算をしてみると,空洞の中心の深さは2kmで.形状が球なら半径は250m(体積は約7000万m3)ほどと見積もられた.しかし,こんな巨大な空洞が,そんなに簡単に地下につくれるのだろうかと誰しもが疑問に思うだろう.ところが,この測定のわずか2日後に,山頂カルデラが一気に200m以上も陥没し,半径約300mの陥没孔が生じた.これは想定された地下空洞の半径とほぼ同じであるから,重力測定で推定した地下の空洞形成を実証した出来事となった.


図2. (左)三宅島の2000年噴火活動の前後の重力変化.プラスマイナス100μGalを超える大きな重力変化が観測された.(右)観測データから,三宅島火山の直下に,大規模なマグマの移動と空洞の形成が明らかになった.



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