目次 | 第3部 応用編 | GPS気象学
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1.GPSと気象学の関係 2.大気遅延量の処理 3.地上型GPS気象学 4.地上型GPS気象学の展開 5.宇宙型GPS気象学

GPS気象学 − GPSと気象学の関係

 GPSは,もともと米国が航法支援のために構築した人工衛星による測位システムだが,ごく初期の頃から測量への応用が進められ,測地学にも質的な転換をもたらした.航法と測量は,ともに位置の決定に関係するので,GPSがカーナビだけでなく測地測量にも使えるというのは理解できる.でも,表題の「GPS気象学」とは,どういうことだろう.GPSは位置を測る道具だし,気象学は大気の状態やその中で起きる諸現象を研究する学問なのだから,余り関係なさそうなのに.

 今日我々が知るGPS気象学は,1992年に米国のBevisらが発表した「GPS気象学:GPSを用いた大気中の水蒸気のリモートセンシング」という論文で幕を開けた[1].実は,この論文のタイトルは,GPS気象学の的確な定義となっている.直接関係がなさそうに見えたGPSを気象学に結びつけたのは,大気中の「水蒸気」だったのである.

 水蒸気は,凝結して雲を作り,雨や雪を降らせ,また大きな潜熱を持つことからエネルギー的にも気象を左右する,気象学にとって重要な物質である.その空間分布の測定には,気球を飛ばせて上空の温度・湿度等を測定するラジオゾンデや,人工衛星に搭載されたマイクロ波放射計などが利用されているが,一長一短があり,気象数値予報の精度を向上させるため,気象学者は常に新しい測定手法を求めていた.

 一方,GPS測量の精度向上を目指す測地学者にとって,大気中の不均一な水蒸気の分布は,GPS衛星から送られてくるマイクロ波の進行を乱し,特に上下方向の測位精度を悪化させる厄介な誤差要因であった.このため精力的な研究が進められ,1990年頃には,各GPS観測点の天頂方向の大気遅延量を,観測点の座標と一緒に推定する手法が確立していた.

 このような,水蒸気をシグナルとする気象学と,水蒸気をノイズとする測地学とが出会い,幸せな結婚に至ったのが,GPS気象学である(図1).


図1. 水蒸気を介して測地学と気象学が学際協力する(地上型)GPS気象学のイメージ.我が国のGPS気象学では,気象数値予報のデータを測地側にフィードバックし,GPS測位精度の向上を図ることも目指した.

参考文献
[1]GPS気象学の発端となったのは,
Bevis,M., S.Businger, T.Herring, C.Rocken, R.A.Anthes, and R.H.Ware(1992):GPS Meteorology: Remote Sensing of Atmospheric Water Vapor Using the Global Positioning System, Journal of Geophysical Research, Vol.97, No.D14, 15,787-15,801.
当初から「宇宙型GPS気象学」も視野に入れている.気象学側からみた論文としては,
Businger,S., S.R.Chiswell, M.Bevis, J.Duan, R.A.Anthes, C.Rocken, R.H.Ware, M.Exner, T.VanHove, and F.S.Solheim(1996):The Promise of GPS in Atmospheric Monitoring, Bulletin of the American Meteorological Society, Vol.77, No.1, 5-18.
なお,Businger氏を著者に含む論文は,ハワイ大学のサイトからダウンロードできる.
[2]日本語では,次の解説が大変参考になる.
日本気象学会(編集 内藤勲夫)(1998): GPS気象学,気象研究ノート,第192号,p.220.



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